あなたの許へ

 自室で本を読んでいた柚香は、空になったマグを手にキッチンへと向かう。
 窓辺に置いたアジアンタムに、水はまだ必要なさそうだ。

 ふと気付いて、食器棚を開けた。
 チョコレートを一掴みと、新しいマグをひとつテーブルに置いた。
 先日市場へ行ったときに、本人が気に入って購入してきたものだ。

 熱い珈琲を注ぐと、待つ間もなく玄関のチャイムが鳴り、扉が開いた。

「――おかえりなさい」
 そう言って迎えると、大きな腕が柚香を包んだ。
「ただいま」

 温もりの中へ。
 今、帰還の時。

fin.
26 APR 2010 ポトス拝
背景:「Kigen」
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