咲く場所− 双翼 −
宇宙戦艦ヤマトの二次小説です。
時代はイスカンダル直前とその後。恋愛関係ではありませんが、オリジナルキャラクタと真田志郎が絡みます。
地球防衛軍極東基地第三ドック工場長・真田志郎は、扉をくぐると店の中を見回した。
ピアノの音が流れている。
間接照明は店の中を程良い明るさに照らし出し、部屋の隅や衝立の作る陰が恋人たちを優しく包んでいた。
「真田さま」
店の隅のテーブルにひとりで座っていた若い女が、つと立ち上がった。そして、目を伏せると静かに頭を下げた。
真っ直ぐに伸びた背から栗色の髪がふわりと流れた。
こんなに美しい辞儀を見たのは初めてだ、と真田は思った。
「真田志郎です。お待たせしてしまってすみません」
「南部薔子です。今日はお忙しいところを、ご無理をきいていただきありがとうございます」
顔を上げた女性の、切れ長の美しい目が真田を捉えた。
互いに初対面であった。
数日前、第三ドックにいた真田は薔子から会って欲しいとの連絡を受けた。多忙を理由に一度は断ったものの、兵器製造企業として軍とも深い関わりのある南部重工総帥の娘からの依頼を結局は断りきれず、今日の対面となった。薔子の身の安全を考慮し、場所は彼女の宿泊しているホテルの中の店である。
真田は現在27歳。薔子はそれよりも3歳ほど年下になる。ふたりはテーブルを挟んで向かい合って座った。
「何をお持ち致しましょうか」
珈琲を、という時間でも場所でもない。
「わたくしにはマティーニをお願いします」と薔子が言い、「では、同じものを」と真田がニコリともせずに頼んだ。
互いに口を噤んだままでいる。
運ばれてきたグラスの中で揺らめくオリーブから先に目を上げたのは、薔子の方だった。真っ直ぐに真田を見つめた。
「本来でしたならば自己紹介をすべきでしょうが、既にわたくしのことはご存知でしょう」
真田は相変わらず沈黙を守っていたが、それには一向に頓着せずに薔子は続けた。
「どうしてわたくしが選ばれたのか、その理由をお聞かせいただきたいのです」
薔子の発した言葉に、真田の表情が動いた。