星下之宴

時を駆けるお題よりー武士の時代no.10「宜候」
「宇宙戦艦ヤマト」の二次小説です。
時代はイスカンダル以前。古代守や真田志郎の訓練学生時代の話です。
オリキャラ(女)が登場します。
尚、一部TVアニメの台詞を使わせていただいております。
オリキャラあり。
written by pothos
#1

「こちらミサイル艦、艦長・古代守。敵艦撃沈! 繰り返す! こちらミサイル艦、古代!」
 古代守の目前を、傷付いた艦がゆらりと横切った。
「! 沖田さんの艦だ!」
 艦隊司令・沖田の艦は酷く破損しており、これ以上の戦いが無謀であることは一目で判別できた。
「艦長! 古代艦長! 沖田司令から入電です!!」
 ぐ、と古代守は下腹に力を入れた。
「全軍、撤退! 繰り返します! 全軍撤退です!!」
 ざわ、と艦の空気が揺れた。

 この冥王星会戦は、地球の残存勢力の全てをかけた最終決戦だった。
この数年の戦いで痛めつけられた地球防衛軍には、もう戦力らしい戦力は残っていない。この戦いに敗れれば、地球人類を待っているのは未来(さき)のない惑星(ほし)の穴蔵だけだ。

   決断するまでは、数秒だった。
「みんな、済まない。沖田司令の艦を地球へ還す」
 一瞬、乗組員の動きが止まった。
 その決断が自艦の生還を意図しないものであることを、誰もが確認するまでの数秒。
 誰もが、永遠に続くように感じていた、数秒。
「了解した」
 沈黙を破ったのは、艦の操舵を握る航海士だった。
「――茉莉(まつり)
 古代の口から、古い呼び名がこぼれ落ちた。
 呼ばれた茉莉花(まつりか)が古代を見やった。
「この艦に乗った時、全てをお前に預けた」
 にやり、と笑う。
 艦内の空気が、一瞬で和らいだ。
「俺らだっておんなじですよ、古代艦長」
「やれるところまで、やろうじゃありませんか」
 背後から、伝声管から、乗組員の声が応える。
 古代は顔を上げた。

「艦長、古代艦長! 沖田司令からです!! “全軍撤退。我に続け!” 繰り返します! “全軍撤退。我に続け!”」
「旗艦に通信を開け!」
「了解!」
 返答とほぼ同時に、司令・沖田十三の姿がパネルに映し出された。
「古代、わしに続け」
「僕は嫌です! ここで撤退したら、死んでいったヤツらに顔向けできません! 最後まで戦います!」
 開口一番、古代は叫んだ。
「いいか、古代。ここで全滅してしまっては地球を守るために戦う者がいなくなってしまうんだ。明日のために、今日の屈辱に耐えるんだ。それが男だ!」
 どんな時であろうと泰然とした姿勢を崩すことの無かった沖田の顔が苦渋に歪んでいる。既に沖田とともに帰還できる艦は、この古代の艦だけだ。
「沖田さん。男だったら、戦って戦って、戦い抜いてひとつでも多くの敵をやっつけて死ぬべきじゃないんですか!? 私は逃げません!」
「古代っ、わかってくれ!」
 転舵した沖田の艦が、通り過ぎていく。
「沖田さん、俺はどうしても逃げる気にはなりません。見逃してください。お元気で。地球のことをよろしくお願いします」
「古代っ! ――死ぬなよ」
 沖田の声は、ぷつりと切れた暗いモニタに吸い込まれていった。

「――“男なら”ってのは気に入らんな」
 茉莉花の言葉に、艦内から失笑が洩れた。
「そう気にするな。お前ほど男らしいヤツはいないさ」
 古代も苦笑しつつ言った。
「その通りだぜ、(ねえ)さん」
「ああ。あんたにゃ、叶わねえ」
 艦内からかかる声に、茉莉花は首を傾げる。
「誉め言葉なのか、(けな)されているのかよくわからんが。――まあ、いい」
 茉莉花は操舵桿を握る手に力を込めた。
「艦長、指示を」
 古代は一度だけ目を伏せ。静かに顔を上げた。

 爆発した友艦の残骸。

 行く手を遮る敵艦。
 船尾に迫る敵艦。

 全てを包んで星の海が果てなく続いていた。

「全速前進」
「宜候」

 艦は星の海へと漕ぎ出た。

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