The Star Festival


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花イラスト


 真田は、ふうと短く息を吐き出す。
 強化テクタイトの扉の向こうは目映いばかりの光で溢れている。梅雨前線を北へと押しやった高気圧が、 そこにどんと控えていた。夏がやってこようとしている。
 眩しげに目を細めながら扉をくぐり、空を仰いだ。地球防衛軍科学技術庁庁舎の屋上に、ひとり佇む。 青い空に白い雲が浮かび、風がそれを東へと運んでいる。コントロールされているのではない、 いや、コントロールすることのできない自然に包まれ、肺の隅々にまで新鮮な空気を送り込んだ。
 屋上を端まで歩く。人影もまばらな、あまり飾り気のない質朴なそこは、科学技術の粋を集めた場所に 一見するとあまり似つかわしくないようにも見えたが。真田は手すりに手を掛け、隣接する庁舎を見た。 連邦図書館本館である。僅かに口許が綻んだ。

 数日前、防衛軍の正装に身を包んだ真田は、その体格の良さも相まってすれ違う者が振り返るほどだった。
「制服は2割増、制帽はさらに1割増とはよく言ったもんだぜ」
 訓練学校以来の悪友・幕之内の笑い声が甦る。
 「行ってらっしゃい」と送り出してくれた、妻の眩しそうに見上げた表情かおを思い出す。 その笑顔が愛しくて、出がけにキスを贈ったのは久しぶりだったような気がする。
 科学技術庁長官就任の挨拶もほぼ済み、今はいつものモスグリーンの制服姿だった。 史上最年少の長官就任にマスコミにもだいぶ騒がれたが。それでも、全てはこれからだとの想いは その胸に刻み付けたまま。逝ってしまったたくさんの人々と、艦と。一緒に戦い、そうして生き残った 数少ない仲間たちを思い浮かべた。
 
地球アイコン
 
 「真田くんじゃない?」
 何の前触れもなく掛けられた声に、真田は振り返った。
「きみ――」
 何年振りだろうか。遠い昔の想い出となった女性ひとがそこにいた。
「お久しぶり、――でも、何だか昔と変わらないのね」
 そう言った女性の笑顔も、想い出のそれと変わらずに。栗色の髪をアップにまとめ、 年齢相応に美しさを重ね、けれどその気の強さを宿した瞳はそのままに、そこに立っていた。 しかし、その身を包むのはもうモスグリーンの制服ではなく、明るいグレーのパンツスーツだ。
 やあ、と真田には珍しく笑顔を浮かべた。
「久しぶりだな。きみも元気そうだ」と。

 女性は躊躇うことなく歩み寄り、真田と肩を並べた。
「変わらない――わけはないわね。長官ですもの。就任おめでとう、と言っていいのかしら」
 柵に掛けた彼女の左手の薬指に、銀に光る指輪があることに気が付いた。
「随分時間が経ったわ。あれから、10年以上ですもの」
 伏し目がちに微笑んだその横顔に過ぎ去った時間を思い出し、己れの右手をギュッと握りしめた。 幸せでいるのか、と一言だけ尋ねてみたくて口を開き掛けたのだが。
「お母さあん」
 明るい少年の声に遮られた。
 その声に彼女が振り返り、次いで真田が振り返る。半袖の白いシャツに黒い学生ズボン。 母親譲りだろう栗色の髪は短くて。満面の笑顔の少年は、嬉しそうに手を振っていたのだが、 母親の隣に立つ真田の姿に気付いて慌てて手を下ろした。成長期に入ろうとする少年特有の、 細くて長い繊細さを残した白い腕だった。
 こっちへいらっしゃい、と母親に手招かれ、少年はおずおずとやってきた。
「息子の優介よ、真田くん。今年から中学生なの」
 母親に紹介され、けれどぽかんと口を開いて真田を見上げた。史上最も若い科学技術庁長官の就任で、 連日ニュースを賑わせている顔がそこにあることに驚き、けれど、すぐに我に返って「こんにちは」 と頭を下げた。きびきびとしたその一礼に、好ましさを感じる。色白の肌も、栗色の髪も、 賢そうな眉の形も母親によく似ているが、その笑顔の印象は全く違うもので。 それは父親似なのかもしれない、と思いつつ、真田も礼を返す。
 どうしてお母さんが真田長官と一緒にいるの? と顔色に表したのは一瞬だけで、 少年は母親に視線を投げた。くすり、と真田が笑みをもらしたことは、たぶん誰も気付かなかっただろう。
「私はね、昔君のお母さんに振られたことがあるんだよ」
 表情ひとつかえずにそう言う真田に、少年は、ますます驚いて目をぱちくりとさせたが。
「ま。真田くんたら、いやね」と女は口許に手をあて、花のように笑った。
 そんな母親の様子を眩しげに見上げた少年は、だが、手短に用件を済ませると 鮮やかな笑顔を残し去っていった。

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TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説です。

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