蒼 天


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ガーベライラスト
 =2=
 ばしいいいいいいいん。
 科学局内にある資料室で、平手で横っ面を張られた真田志郎が呆然としている。
「――すけべっ!」
 ムッとして口をへの時に曲げた柚香は、上目遣いに真田を睨むと、プイッと踵を返して部屋を出ていった。
 呆気にとられた真田は、その後ろ姿を見送るばかりだったが。
 プッと。
 部屋の隅で最初の笑いが洩れると、クックッとあちこちで失笑が重なった。

 部屋の隅で、藤咲もまた拳で笑いを抑えた。
 もう長いことこの男の部下をやっているが、なかなかお目にかかれる光景ではない。科学士官でありながら十二分な戦闘能力を持つ戦士でもある。尚かつ、惑星系随一の天才科学者と誉れ高いこの男が、黙って殴られた上に目を丸くしている姿など、もはやこの先二度と見ることはないかもしれないと思うと、抑えたはずの笑いが零れ落ちた。

 「局長―」
 声を掛けられた真田が、我に返った。
「藤咲っ。なぜ、俺がひっぱたかれんといかんのだ!?」
 ぎょろりとした目を剥いて、真田は怒るが。
「仕方がないんじゃありませんか?」
 藤咲の言葉はつれない。
「俺は何もしとらんっ!」
 冷静沈着と言われる局長がムキになる姿が物珍しく、局員たちの耳目が集まった。
「でも、見えたのでしょう?」
 済ました顔で藤咲は言う。
「ふ、不可抗力だっ! 目の前でスカートがめくり上がれば、誰だって見るだろうがっ!」
 言いつつも、何を思い出したのか、少々顔を赤らめた。

 くすりと笑った藤咲が肩を竦める。
「――役得だったのは貴方だけだったんですから、報いを引き受けるのも当然というものじゃありませんかね。まあ、目の保養になったと思えばいいじゃないですか」
 我ながら問題発言だなと思いつつも、いつもはポーカーフェイスのこの上官をからかってみたい衝動を藤咲は抑えかねた。
「アナライザーに感謝したらどうです?」
 真田がハッとする。
「アナライザー! アイツは何処へ行ったんだっ!!」
 今更何を言うんですか、と藤咲が再び肩を竦めた。
「とっくに出ていきましたよ」
 それさえも気付かないほど、動転しているらしい。
「ま、自業自得ということで潔く諦めるんですね」
 藤咲の言葉に、真田がくってかかった。
「どこが“自業自得”だというんだ!?」
 あのですねえ、と大きな溜め息をついた。

 「イスカンダルへ向けて出発した早々に、森君からさんざ苦情があったじゃありませんか。忘れたとは言わせませんよ? それをほったらかしにして置くから、こういうことになるんですよ」
「あ、あの頃はそんなことにかまっていられる余裕などなかったろうが。大体、お前たちだって誰も手を出さなかったじゃないかっ」
 ――そりゃそうですよ、勿体ない――とは、口には出さずに藤咲はにっこりと笑った。
「そもそも、初めからあんな機能を搭載させなきゃ良かったんじゃないですか?」
 真田の百面相がここに極まる。
「あれを載せたのは俺じゃなーーーーいっ!!」

 真田の声が虚しく響いた。
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TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説です。

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