雲の行方

時を駆けるお題よりー武士の時代no.27「初陣」
宇宙戦艦ヤマトの二次小説です。
時代は「復活篇」直前。古代雪のひとり語りです。
written by pothos
#1

 あの時。
 波の音がいつもよりはっきりと聞こえてきた。

 美雪あのこは前日から部活の合宿で。
 本当に久しぶりに。
 二人きりで、ゆったりと過ごしたわね。

 私の頬にキスを残して、あなたはテラスへと出ていった。
 手すりにもたれるあなたの髪を、風が揺らしていて。
 オレンジ色の陽に包み込まれた背中は、出逢った頃と少しも変わらない。

 決めた、のね。
 あなたの背中がそう言っているもの。  

 あの、第一艦橋の真ん中にあなたはいたわ。
 果てしない彼方への旅も、そこに立ち塞がる敵がいても。
 ただひたすらに前を見つめて、進むしかなかった。
 あの頃から。

 みんなの期待を背負って。
 この惑星ほしの命運を背負って。
 戦って。戦い続けて。

「僕たちは戦ってはいけなかった。僕たちに必要なことは、愛し合うことだった」
 戦いの果てに、滅亡に追い込んでしまったあの星で、あなたはそう言ったけれど。
 でも。
 あなたは、戦いを止やめることはできなかった。
 生きるためには、戦うしかなかったから。

 そうして。
 あなたは戦い続けてきた。
 あの艦と共に。
 あの艦が沈んでからも。
 ずっと。

 だから。
 あなたがそう決めたのなら。
 それで、いいのよ。

 ねえ。
 あなた?  

「ユキ。散歩に行かないかい?」
 振り返ったあなたの声は、穏やかだった。
 私の名を呼ぶあなたの声が、今も好き。
「支度をするからちょっと待ってね?」

 水平線の彼方に沈み行く陽が、最後の光を放ち。
 あの空が、光った。  

 そして、あなたは。

 軍を辞めた。

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