夢は彼方へ
TO YAMATO U

時を駆けるお題よりー武士の時代no.26「異国憧憬」
宇宙戦艦ヤマトの二次小説です。
時代は、ヤマト時代以前。真田志郎を中心とした訓練学校時代の物語です。
オリジナルキャラ登場。
written by pothos
#01

 ジイジイと、蝉の鳴き声が開け放した窓から飛び込んでくる。
 2190年の夏は、記録的に暑かった。
 巷では熱中症で倒れる者が続出したが、ここ、宇宙戦士訓練学校も例外ではない。学生舎はまさに蒸し風呂状態だった。とはいえ、毎年恒例の『これもまた訓練だ』という大義名分が堂々とまかり通ってはいたものの、訓練生たちが『自習』と称して冷房のある校舎へ逃げ込むのも、今年は苦笑とともにおおめに見られていた。

 だが、この総合科学研究室は閑散としている。それは早朝だからという理由では、勿論ない。
 ここが『変人の巣窟』と呼ばれていることを知らないのは、ここへ集まる人間だけである、というのは何時の時代も変わらない。

 『変人』と分類されるひとりが、窓を閉めながら言った。
「ねえ、黎那れなは自由課題、何か考えた?」
 同じく『変わり者』と呼ばれるひとりが、顔を上げる。
「ん。――しんは?」
 キーボードを打つ手を止め、質問を返した。
「まだ決めてないんだよね。志郎は?」
 『怪物』が冷房のスイッチを入れると、肩を竦めた。
「ふうん。――それなら、あたしの話にのらない?」
「何するつもりなの?」
 槇が、仔犬のようだと言われる薄茶の瞳を、きらりと輝かせた。

 宇宙戦士訓練学校へ入学し、半年近く。
 真田志郎、佐藤槇、そして藍澤黎那あいざわれなの3人は、ここで机を並べている。

 あの日、試験会場で顔を合わせた3人は驚いて目を瞠った後、にやりと笑った。
「偶然だな」
「ご縁、じゃない?」
「腐れ縁はごめんだけど」
 それぞれが勝手なことを口にして、だが、最後は一緒に「まったくだ」と締め括った。
 結果。
 互いに握手を交わした3人が、入学考査の上位三席を占めることとなった。
 希望課程は、共に技術科。
 中でも、真田の成績は群を抜いており、また、既に博士号を有し最高学府にて実績を上げていることも相まって、早速研究室を与えられることになった。
 『変人の巣窟』が誕生したわけである。
 とはいえ、この3人が特に親しくしていたわけではない。たまたま、この夏の課題に、指定されたグループのメンバーだったというわけだ。

 現在、夏期訓練が終了し、長期休暇を前に期末考査が終了した処。
 さすがに初めての特別訓練はハードではあったが、それぞれに優秀な成績を修めた。いかにもな真田は別格で、万能とも云える才能を多方面で発揮し、早速、『怪物』と認識されるに至る。だが意外なことに、軟弱そうに見えた槇や、いつ脱落するかと陰口をたたかれていた黎那までが実技でも上位の成績を収めたことで、3人は一目置かれる存在となった。  

 さて。長期休暇中の自由課題である。
「何考えているのさ」
「ロボット制作なんてどう?」
「今更?」
 槇が言うのももっともだ。
 技術科へ進もうと思っている人間なら、既に、1体や2体のロボット製作の経験は持っているだろう。
「――どういうことだ」
 真田の言葉に、うふふん、と黎那が勿体ぶってみせた。組んだ指の上に、その形の良い白い顎を乗せ、笑う。
「キーワードは宇宙。それから、オトモダチ、ね」
 なるほど、と真田が腕を組み思索に走る。
「万能ロボット、だな」
「そういうこと」
「おトモダチってことは…つまり、感情も学習するの?」
「そうそう」
「宇宙に出るなら、分析は必須だな。ボディの強度も必要だ」
「日常生活の補助もできないとね。丹沢製作所で活躍できるくらいには」
「げっ。それって、めちゃくちゃハイレベル」
「じゃなきゃ、面白くないじゃん」
「それならば、中央中枢コンピュータ並みのデータと演算能力も欲しいところだな」
「うふふーん。どこまで迫れると思う?」
 うーん、と槇が首を捻った。
「――高機能アンドロイドにしたいわけ?」
「それは、不可。あくまでも、ロボット。見かけはオールドタイプだよね」
 ヒューマノイド型ロボットには、擬似感情によるやっかいな問題を引き起こすことを防止するために、様々な規制があった。

「それじゃ武装ロボットってこと?」
「ううん。それはなし」
「うーん。宇宙へ出るのに非武装ロボットって、いざって時に役に立つの?」
 槇の疑問はもっともだが。
「じゃあ聞くけど、槇は“オトモダチ”を楯にして何とも思わないわけ?」
 う、と槇が言葉に詰まった。
「ね? コンセプトがオトモダチだったら、非武装でしょ?」
「藍澤に一票だな」
 真田が口を挟んだ。
「確かに」
 槇も納得したようだ。

 それで、どう? と、黎那がふたりを見やった。
 沈黙が、5秒を数える。

 「「のった」」
 3人同時に、親指を立てた。
「基本設計とデザインは志郎だね」
「制作は、槇。プログラミングは、あたし」
「それぞれ、得意分野を担当、か」
「1か月で足りるかな?」
「それはやるっきゃないんじゃない?」
「――そういうことだな」

「じゃ、始めようか」
「まずは、基本プランの確認からだな」

 最高に楽しい夏が始まった。

 はずだったのだが。
 3人が音を上げたのは、なんと、たった1週間の後だった。

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