一番初めに見たのは、白い手だった。
暗闇に浮かび上がったそれは仄白く、細くて長い指の微かな動きは たおやかという表現がよく似合っていた。
ゆっくりと近付いて来、けれど躊躇うように動きを止める。 それから、ほんの僅かに近付き、だが触れることなく戻ってゆく白い手。
俺は子どもの頃おふくろに聞いた『雪女』を思い重ねていた。 吹雪の中やって来て、約束を破った男の命を奪ってゆくという美しい女。 雪のように冷たいその息に触れると、人は皆凍り付いてしまうのだという。
あの手に触れたら、俺も命を落とすのだろうか?
いいや。俺はまだ死ねない。
俺は生きて故郷の星へ帰るのだから。
決して、おまえになど捕まりはなしない。
そう幾度も念じながら、けれど、その白い手に触れたいという誘惑は、日毎に増してゆく。
躊躇うその手が、俺を誘う。
俺は、とうとうその手を掴んだ――。