ハートこの花を君に


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:時を駆けるお題−武士の時代 no.04−恋文の行方
宇宙戦艦ヤマトの二次小説です。
時代はイスカンダル帰還後数か月です。真田志郎とオリジナルキャラクターが登場します。
苦手な方は、ご退室ください。ご興味のある方のみ、どうぞ。


チューリップ
 =1=
 さあっと音がしたような気がして、和樹は顔を上げた。
 2201年、早春。つい半刻ほど前まで、青く晴れ渡っていたこの極東地域のメトロポリスの空は薄い雲に覆われていた。
「空が明るいから、通り雨かな」
 ぼそりと呟いた和樹は、もう一度バケツを持ち上げた。昼時を過ぎた店の中には客の姿はなく、バケツにたてた色とりどりの花が美しい。花の入ったバケツを片づけると、窓際の椅子に腰掛けて上機嫌で空を見上げた。

ジュエル

 和樹の店は、メトロポリスの市場の中にある花屋である。ほんの一握りの小さな店だ。一階が店舗、二階が住居になっている。そろそろ三十路を迎える同年の妻とふたりで、この店を切り盛りしていた。
「青い空が見られるだけでも感謝しないとな」
 嬉しそうな顔をして、胸ポケットからタバコを取り出した。

 地下都市から地上へと移ったのがこの正月。
未だ気候は安定せず、放射能を含んだ雨は恵みの雨とは言い難い。食物も地下の栽培工場で作られたものがほとんどだ。地上での耕作はこれからである。もちろん、店にある花も皆、促成栽培のものであった。

 ひょい、と取り出したのが最後の一本だということは、既に承知している。
火を付け、ゆっくりと煙を吐き出し、満足げにタバコを燻らす。特別な銘柄ではなかった。二十歳の頃から吸っているいつものタバコだ。だが、これが最後だとなれば、特別な一本である。半年ほど前に生まれた息子は、どうやら気管支が弱いらしい。禁煙を決意した。
 うまそうに二回、三回と煙を吐くと、タバコは律儀に短くなってゆく。最後のひと煙を吐き出すと、和樹は名残惜しそうに火をもみ消した。
「さあ、これで禁煙だ」
 立ち上がって、エプロンをギュッと締め直した。

ジュエルライン

 ばたばたと足音がして、男がひとり駆け込んできた。
突然の雨に用意がなかったのだろう。店先での雨宿りかと思ったが、男は店の中に入ってきた。
 初めての客だ。
 和樹は商売柄、一度見た顔は決して忘れない。
「いらっしゃい」
 愛想良く声を掛けた。男はキョロリと店の中を見回し、他に客のいないことを確認したようだ。
「すまないが、雨宿りをさせてもらっていいだろうか」
 律儀に声をかけてきた。浄化されきっていない雨の中、傘もささずに出歩くのは危険だ。
「ああ、勿論だ。雨が止むまでゆっくりしていってくれ」
 和樹の言葉に男は礼を言うと、店の花を見渡した。
「随分、種類が多いんだな。まだ、地下工場で栽培されたものだろう?」
「ちょうどバレンタインのシーズンだからさ」
 男が訝しげな顔をしたことに和樹は気付いた。
「『大切な貴方に、この一本を』って聞いたことはないか? ここ数年、チョコレートと一緒に花を一本添えるのが流行っているのさ」
「――そうだったのか。知らなかったよ」

 男の答えに、コイツならばさもありなん、と和樹は思う。
 滅亡の危機とまで言われたこの数年だったが、花屋の需要はそれなりにあったのだ。もちろん、工場では食物が優先的に栽培されたが、人は食べるだけでは生きていけないらしい。治安と花の売り上げが比例する、などと言われたこともあったが和樹に真偽のほどはわからない。だが、確かに滅亡の間際になってさえ、花を求める人は存在した。少なくとも、こうして和樹が家族と共に食べていけるくらいの売り上げにはなったのだ。
 バレンタインデーに花を添えて、というのもそういった風潮と重なったのかもしれない。チョコレート会社とのタイアップのお陰で、花屋業界も賑わっていた。大切な人への想いを込めて、少しでも他人と違うものを求めようとするのに応えて、種類や色、形状などが開発された。花言葉がもてはやされるのも、当然の成り行きだろう。

 「何か作ろうか?」との言葉に、「あぁ、いや。ああ、そうだな――」と答える。「俺は鉢植えの方が――」と切り花には興味を示さないようだ。
「切り花は実を付けないけどな、命の循環から外れてしまっているわけじゃないんだぜ?」
 男が不思議そうな顔をして、和樹を見た。
「繋がっていないものなんか、この世界にはないだろう?」
 男が和樹の視線を追っていくと、そこには一枚の絵があった。手彫りの木枠に納まったパステル画が壁に掛けてあった。その絵を見た男の目が見開かれてゆく。
「――かずき、なのか?」
 男の問いに、和樹は嬉しそうに笑った。
「――ああ。久しぶりだな、志郎」

砂時計

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TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説です。

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