愛する君に

時を駆けるお題よりー武士の時代no.45「小春日和」
宇宙戦艦ヤマトの二次小説です。
時代は「永遠に」前のイカルス。
オリキャラあり。
written by pothos
#01

「何!? サーシャが寝込んでいるのか? どこが悪いんだ!?」
 小惑星イカルスにある天文台の通信室。モニタの中、親友・古代守の顔が歪んだのを見て、真田志郎はふっと笑った。
「そう心配せずとも大丈夫だ。疲れがたまったのだろうと医療センターからは言ってきている。カリキュラムは見直したし、ウィルス検査も確認済みだ。成長過程にも特に大きな変化はない。予測の範囲内だ」
 親友の言葉に、古代は明らかにホッとした表情をみせた。

 古代守は一見すると激情家のようにうつる。彼の持つ何かが、接する者を強烈に惹き付けるからだ。だが、その実は案外冷静な男だ。でなければ、イスカンダルから帰還した早々に、地球防衛軍の参謀など任せられるはずがない。自分をコントロールする術を知っている。その為、少々のことではその不敵な面構えを崩すことはない。
 真田とは違った意味でポーカーフェイスな男だ。
 だがそんな男も、愛娘のこととなると様相が変わる。一喜一憂といった表情を見せる。
 その取り乱す様が真田には可笑しく、こちらもまた不敵といわれる笑顔を浮かべる。

「子どもは熱を出しながら育っていくものだ。そう心配するな」
 余裕で答えてみせた真田の笑顔が癪に障る。
「ほう、未だ独り身のお前にしちゃ、随分含蓄のある言葉だな。どこから仕入れてきたのやら」
 にやりと笑った親友に、普段なら顔色ひとつ変えない真田がムッとした。
 そもそも、「強面」と言われるポーカーフェイスがすっかり板に付いている真田をからかう人間は、あまりいない。宇宙戦士訓練学校からの付き合いになるふたりは、互いに、数少ない気の置けない相手であった。

 2度目のイスカンダル行からの帰還後、真田はイカルス天文台に台長として赴任した。未知の敵と遭遇し、あまつさえ交戦をしたヤマトをあらゆる目から隠し、万一に備えて改造・補修を行うことが主な任務であった。訓練学校の教官というのは、付帯事項でしかない。だが、それとは別にもうひとつ重要な任務を抱えていた。親友・古代守とイスカンダル女王の娘・サーシャの養育である。
 現在は、ヤマトの料理長であり、訓練学校の同期生である幕之内やヤマトの機関長である山崎、また子育て経験のある柚香らの協力を得て、慣れない子育てに奮闘中であった。

「それで、次は何を送ったらいいんだ?」
 軍用の、厳重なシークレット回線で仕事の打ち合わせを済ませた古代が、そう尋ねた。何気なく尋ねたつもりだろうが、少しばかり顔が綻んでいるのを隠しおおすことはできないようだ。
「そうだな。次はこいのぼりなんかどうだ。喜ぶんじゃないのか」
 真田は何の遠慮もなく顔を綻ばせた。赤ん坊の頃こそ、どう接していいかわからずに戸惑ってもいたが、今の澪は可愛い盛りである。
 その上、一体、今何月だと思って居るんだ? と、そう突っ込むヤツはここにはいない。それこそ、幕之内がここにいたなら、「だから貴様らは“ダブルパパ”なんて呼ばれるんだよ」と苦い顔をして見せたに違いないが、生憎、現在通信室にいるのは真田ひとりである。いつもなら一緒にいる澪は、少しばかり熱を出して今日は既に休んでいるのだ。
 話がトントン拍子に進んだのは当然の成り行きで、地球の古代守から、澪宛てに大きな荷物が届いたのは、それから間もなくのことであった。

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