継 承
宇宙戦艦ヤマトの二次小説です。
時代はヤマトV後の地上。
オリジナルキャラが真田志郎と夫婦です。
「う、わあ…」
それを見上げた少女は、こぼれ落ちそうな程にその黒い眼を見開いた。
「すごい…」
驚きの後。
次第にその頬が紅潮してゆく様に、父親は目を細める。
地球連邦図書館の一室で。
収蔵された膨大な資料を目の当たりにし、
少女は、その存在感に圧倒されていた。
高い天井まで届く書棚に、
きっちりと納められた書籍。
頁をめくる音さえもが聞こえそうな静寂と。
間接照明によるあたたかな明かり。
微かな埃の匂いは本の香りとして、少女の記憶に刻み込まれた。
部屋の中に点在する、それらを手に取る者たちは。
手許を照らす白い光に包まれ。
まるでそこだけが別の空間であるかのように。
己れの世界にのみ、佇んでいるようだった。
少女は。
ただ、そこに存在するものが知りたいがため。
まだ見ぬものに触れてみたいがため。
その好奇心のままに。
小さな白い手を、そっと伸ばした。
「柚香」
少女は、ぴくりと動きを止める。
(なあに?)
いつもなら出てくる言葉を口にのぼらせることもなく。
ただ、首を傾げた。
「ページを折ったり、汚したりしてはいけないよ」
背の高い父親を娘は見上げ、こくりと頷いた。
「君はまだ小さいのだから、本を読むときは机を使うこと」
再び、頷く。
「本は1冊ずつ持ってくること。読み終えたら、元に戻すこと。わからなければ、お手伝いロボに聞くこと」
三度、頷いた。
「約束できるね?」
一瞬の間を置き、瞳を輝かせた少女が頷く。
父親は娘の頭に手を置き、屈み込んだ。
「ここにあるものは、皆が次代へ繋ごうとしたものなのだよ」
「つなごうとしたもの?」
「そう。知の結晶とも呼ばれる人類の偉大な宝だ。
――君はそれを継ぐ者になれるかな?」
幼い少女に、その言葉の意味がわかるはずもなく。
それでも零れるような笑顔を向けた娘に、父親もまた、笑みを返した。
「さあ、冒険に行っておいで」
小さな一歩が踏み出された。