継  承

時を駆けるお題よりー武士の時代no.22「奥都城の杜」
宇宙戦艦ヤマトの二次小説です。
時代はヤマトV後の地上。
オリジナルキャラが真田志郎と夫婦です。
written by pothos
#prologue

「う、わあ…」
 それを見上げた少女は、こぼれ落ちそうな程にその黒い眼を見開いた。
「すごい…」
 驚きの後。
 次第にその頬が紅潮してゆく様に、父親は目を細める。

 地球連邦図書館の一室で。
 収蔵された膨大な資料を目の当たりにし、
 少女は、その存在感に圧倒されていた。 

 高い天井まで届く書棚に、
 きっちりと納められた書籍。
 頁をめくる音さえもが聞こえそうな静寂と。
 間接照明によるあたたかな明かり。
 微かな埃の匂いは本の香りとして、少女の記憶に刻み込まれた。

 部屋の中に点在する、それらを手に取る者たちは。
 手許を照らす白い光に包まれ。
 まるでそこだけが別の空間であるかのように。
 己れの世界にのみ、佇んでいるようだった。

 少女は。
 ただ、そこに存在するものが知りたいがため。
 まだ見ぬものに触れてみたいがため。
 その好奇心のままに。
 小さな白い手を、そっと伸ばした。

「柚香」
 少女は、ぴくりと動きを止める。
(なあに?)
 いつもなら出てくる言葉を口にのぼらせることもなく。
 ただ、首を傾げた。

「ページを折ったり、汚したりしてはいけないよ」
 背の高い父親を娘は見上げ、こくりと頷いた。
「君はまだ小さいのだから、本を読むときは机を使うこと」
 再び、頷く。
「本は1冊ずつ持ってくること。読み終えたら、元に戻すこと。わからなければ、お手伝いロボに聞くこと」
 三度、頷いた。
「約束できるね?」
 一瞬の間を置き、瞳を輝かせた少女が頷く。

 父親は娘の頭に手を置き、屈み込んだ。
「ここにあるものは、皆が次代へ繋ごうとしたものなのだよ」
「つなごうとしたもの?」
「そう。知の結晶とも呼ばれる人類の偉大な宝だ。
――君はそれを継ぐ者になれるかな?」
 幼い少女に、その言葉の意味がわかるはずもなく。
 それでも零れるような笑顔を向けた娘に、父親もまた、笑みを返した。

「さあ、冒険に行っておいで」
 小さな一歩が踏み出された。

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