輝くとき** 憧れの真田先輩 **
「よう、元気そうだな」
惑星探査の航海のためにヤマトに乗艦した初日。食堂で声を掛けてくれたのは、幕之内先輩。
「お久しぶりです! 今度の航海はご一緒することになりました。よろしくお願いします!」
慌てて立ち上がり、カツンと敬礼をすると、先輩も礼を返してくれた。
幕之内先輩には、訓練生時代に実習で散々お世話になっている。卒業してからも、同じ部隊に配属になったことが幾度かあって。プライベートでまでのお付き合いはないけれど、任務ではお世話になっている方だ。
「乗艦祝いだ」
そう言って、先輩は小さなチョコレートケーキを昼食のトレーに載せてくれた。
「ありがとうございます! うわ、美味しい!」
本当に、幕之内先輩の料理は美味しい。これが、戦場だともっと凄いけどね。勇気百倍だもん。挫けそうな処を、何度先輩の料理に救われただろう。
先輩は、ニコニコしながら食べる私を見てる。
とても優しい人。だけど、本当はとってもコワイんだって、私は知ってるけど。
「ようやくだな」
何のことだろう? 私は首を傾げた。
「随分長かったな、と思ってな。よく諦めなかったよ。真田も先輩冥利に尽きるってもんだ」
ブフッ、と思わずケーキを噴出しそうになった。
な、ななな、なんで、幕之内先輩が知ってるわけ!? あたし、言ったことない!!
慌ててコップの水を流し込んだ。
幕之内先輩は、そんな私を可笑しそうに見ていたけど。
「お前、まさか気付かれてないとでも思ってたのか? お前が真田の追っかけやってたこと」
う、うそおおおおおおお!
椅子を蹴って立ち上がったけど、叫ばなかったあたし、偉い!
「ま、幕之内先輩!」
先輩は目を白黒させている私を見て、ニヤニヤとしている。
も、もおおおおおおお! これだから、この先輩はっ!
「どうして、あの時、告らなかったんだ? 絶対、お前さんだけは来ると思っていたんだがな」
一体、いつの話よおおお!
「初めての、訓練学校でのバレンタインさ」
うっそ。あの頃から知ってたなんて。
うう。やっぱ、この先輩人が悪いわ…!
そう、私は結局、先輩が卒業するまで、ううん、卒業してからも、告白することはなかった。
あの時。
私は自分に絶望していたんだ。
あの美弥でさえ、あんなに勇気を出していたのに。
私なんか、って言い訳しちゃった自分が恥ずかしくって。
部屋へ戻って、ベッドの中でいっぱい泣いた。
真田先輩が、好き。尊敬してる。
でも、このままじゃ駄目だから。
影から見ているだけじゃ、駄目だから。
「先輩のことは、私がお守りしますっ!」
そう言った美弥の声が忘れられなくて。
敵を前に、先輩の前に立ち塞がる美弥の姿が浮かんで消えなかった。
どうしたら、いい?
私に、何ができる?
そう思ったら、また、泣けた。
今、自分にできることが何にもなくて。
先輩のために、何もしてあげられなくて。
泣いて、泣いて、泣いて。
泣いてちゃ、駄目だ。
そう思った。