輝くとき
** 憧れの真田先輩 **

バラのアイコン
#2

 2193年、早春。
 私は宇宙戦士訓練学校の1年生だった。

「古代先輩の予定に変更はない!?」
「大丈夫よ。今日は予定通り、通常授業だったはずよ」
「本当でしょうね? 間違いじゃ済まないのよ!?」
 キツイ視線が集まる。
「大丈夫。ウラはとってあるわ」
 情報通の梨佳(りか)が、ウインクがてら親指を立てて見せた。
「それで、チョコの準備は?」
「バッチリ、抜かりは無し!」
「私、すっごくイイ物手に入れちゃったもの♪」
「ええっ! 抜け駆けはずるいわよっ!」
 きゃあきゃあと、クラスメイトがかしましい。まあ、今日はバレンタインデーなのだから無理もない。こんな場所でも、今日ばかりは華やぐ。だって、ここにいるのは花の乙女ばかりだもの。

 みんな、3年の古代守先輩にアタックする予定。
 戦闘科のエースなのよね。甘いマスクと抜群のスタイルでとても優しいと評判の人。勿論、成績もトップクラスで、幹部候補生間違いなし。でも、それ以上に魅惑的なのは、その声ね。一度聞いたら忘れられない、耳元で囁かれたらおちない女はいない、と言われるその声。
 確かに、とても素敵な先輩だわ。

 でも。私がチョコをあげたいのは、古代先輩じゃない。
 いつも、古代先輩と一緒にいる。

 ほら、白衣を着たあのひと。

 とっても頭脳明晰な方。技術科で一番、いいえ、訓練学校でも、連邦大学でも、あのひとを凌ぐ人なんてどこにもいない。この学校に入学する前に、連邦大学の大学院で研究をなさってらした。それくらい優秀な方。
 私はあのひとの許で研究がしたくて、少しでも近くにいたくて、ここ宇宙戦士訓練学校を目指したのだから。
 だから、入学した時からでき得る限りの情報は集めた。
 誕生日、身長、体重、選択科目、履修科目、得意科目、不得意科目、既読の資料、趣味、交友範囲、寮の部屋、交友関係。その他、諸々。
 ちょっとしたマニア並みにね。
 もちろん、先輩とご一緒できるなら何にでも参加したわ、この10か月。講義も、行事も、課外活動も。
 所詮、訓練学校の課題の合間をみてということだから、時間なんて碌にとれなかったけど、授業以外の私の生活は、真田先輩を中心に回っていた、と言ってもいいくらい。

 少しでも先輩の近くにいたい。同じ時間を共有したい。挨拶だけでもいい、言葉を交わしたい。できるなら、私の名を呼んで欲しい――!
 そう思い続けて、早10か月。
 やっと訪れたこの機会。
 でも――!

アイコン

菜摘(なつみ)! 菜摘ってば!」
 ハッと我に返った。同期で戦闘科の梨佳が私の腕を掴んでいる。
「ご、ごめん、何?」
 もうっ、と呆れたように私を睨め付けた。
「あのね、しっかりしなさいよ。あんた、真田先輩にアタックするんでしょう?」
「う、うん」
「真田先輩って言えば、学校設立以来の天才って噂でしょ?」
(う、噂だけじゃないもん。本当にそうだもん)
 と心の中では言い返してみたけど、ここはグッと黙っておく。梨佳に言い返すなんて愚の骨頂。
「あのね、そりゃ古代先輩ほどじゃないにしても、真田先輩を狙ってるコは結構いるのよ? みんな、黙ってるけどね。モタモタしてたら、他のコに先を越されちゃうわよ!?」
 図書館前の廊下で、梨佳が身を乗り出すようにして私に忠告をする。
「わ、わかってるわよ!」

 そうよ、真田先輩、本当はすっごい人気あるもん。そんなこと、よく知ってる。ただ、みんなきゃあきゃあ言わないだけ。だって、あんな天才の前でそんなことして、自分の莫迦さ加減をさらしたくないじゃない。きっと、先輩は莫迦なんて相手にしてくれないだろうし。だから、真田先輩を狙っているのって、結構できるコばっかりなのよね。

「あ、古代先輩いたわよ!」
「うわ。机の上、既にプレゼントでいっぱいよ!」
「何言ってるの! そんなの分かってたことでしょ! さあ、あたしたちも行くわよ。ほら、順番決めたでしょ!」
 1年の女子が鈴なりになって、図書室の扉を開けて恐る恐る覗いた。
「ど、どう?」
「大丈夫みたいよ」
 何が大丈夫かって? そりゃ、ここ図書室の鬼の司書、浅生(あそう)女史よ。彼女に目をつけられたら、そりゃ大変だもん。図書室に出入り禁止なんてことになったら、留年しちゃう。だから、浅生女史の目に触れないように、そっと呼び出さなきゃならない。
「あ、まずい! 古代先輩、寝ちゃう!」
 そりゃ期末考査の前だもんね。真田先輩ほどじゃないけど、古代先輩だって十分優秀だし。きっと夜遅くまで勉強しているんだろうな。

 で、真田先輩は?
 どこにいらっしゃるの?

プレゼントのイラスト

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